先日、生命保険大手の日本生命が個人型確定拠出年金(iDeCo)の運営管理手数料を10月から無料にすると発表しました。資産額などの条件を設けずに無料化するのは生保業界初です。
これにより、これまでの月額319円の手数料が無料になり、すでに加入している人も、一部のプランを除き無料になります。
日本生命は、証券会社や銀行で無料化の動きが相次いでおり、日本生命も追随してシェア拡大を狙っています。
そこで今回は生命保険会社でのiDeCo加入はアリかどうかを考察していきます。
iDeCoとは
そもそもiDeCoとは、個人型確定拠出年金と呼ばれるもので、公的年金とは別な「私的年金制度」です。加入は任意であり、加入の申し込み、掛け金の拠出、掛け金の運用までを全て自分自身で行います。
iDeCoでは、月額5,000円から拠出することができ、拠出限度額の範囲内で拠出金額を決めることができます。(参考:拠出月額限度額は、自営業者:68,000円、サラリーマン:23,000~12,000円(確定給付型の年金、企業型DCへの加入状況によって変動))
掛金は自分で選んだ金融商品で運用をし、60歳以降に年金として受け取ることができます。
iDeCo最大のメリットは節税効果です。一定の制限がありますが、掛金は全額所得控除となります。その他にも、運用益は非課税で再投資されます。また、受給時には、受給年齢に到達して確定拠出年金を一時金で受給する場合は「退職所得控除」、年金で受給する場合は「公的年金等控除」の対象となります。
いくつか抑えておかなけれいけないデメリットもあります。例えば、運用リスクは加入者が負いますので、元本が目減りするリスクや(長期運用においては極めて小さい可能性ですが…)、60歳まで資産を引き出せない(年金という制度上当然と言えば当然ですが…)、そして出口戦略が極めて複雑化する(個人的には、これが最大のデメリットだと思います。ぜひ運用益は全額非課税に…)などがあります。
詳しくは「厚生労働省:iDeCoの概要」をご覧ください。
我が家では、3年前より私のみiDeCoに加入しています。毎月12,000円の掛金を拠出しています。
iDeCoでは掛かる手数料がかなり重要
iDeCoに加入・運用するうえでいくつかの手数料が掛かってきます。これは、iDeCoに限った話ではなく、他の年金でも一定の手数料を支払っています。iDeCoでは次の手数料が必ず発生しています。
①加入・移換時手数料(初回1回のみ):2,829円
加入時の初回に支払う手数料です。比較的高い手数料で、加入する年によってはその年の運用益に匹敵する場合もあります。
②加入者手数料(掛金納付の都度):105円
この手数料は毎月生じるもので、掛け金を拠出する度に発生します。手数料で最も多く支払うものです。
③還付手数料(その都度):1,048円
年金制度の1階部分にあたる国民年金の未納が生じた場合に行われる、掛金の還付の際に発生する手数料です。還付金から自動的に差し引かれます。国民年金はしっかりと払いましょう。
加入1年目に支払う手数料の合計は4,089円
加入1年目に支払う手数料の合計は4,089円となります。仮に毎月12,000円を掛金として拠出していた場合、年間で144,000円を拠出することになります。
そのうち、2.84%は手数料で差し引かれることになりますから、決して馬鹿にできない金額です。
月額319円は2.65%の利回りに相当(スゴイ)
今回、日本生命の発表した月額319円の手数料の無料化は年間だと3,828円に相当します。
この手数料が無料となることによって、毎月12,000円拠出していた人は、2.65%分の利回りに相当することとなります。
複利の効果でもお話している通り、長期の運用においては0.01%でもその利回りが大きくなることが望ましいですから、従来の加入者にとって、この手数料無料化は相当嬉しい結果となったと思います。
保険会社でのiDeCo加入はアリ?ナシ?
保険会社での新規での加入はナシ
今回の日本生命の手数料無料化は利用者にとっては大変喜ばしいニュースです。iDeCoに関しても、様々な恩恵がありますから、資金に余裕がある人は加入することをおすすめします。
ですが、これからiDeCoを始めたいという人には保険会社でiDeCoを始めることはおすすめしません。
理由は後述しますが、株式や投資信託といった金融商品をメインで取り扱う証券会社には競争力でも、制度でも追いつかないからです。また、iDeCoで運用する商品ラインナップの幅が狭いです。
保険会社では加入しない理由
制度上の問題点:破綻した場合のリスク
破綻した際のリスクは保険会社のみならず、証券会社や銀行にも言えることです。一方で、業種の違いによる救済制度にも違いがあります。
金融商品を扱う証券会社や銀行、保険会社には分別管理というものがあります。有価証券や債券などを顧客の金融商品を自身の資産とは別に第三者機関に委託するという、金融商品取引法で義務付けられた制度です。
ですが、過去にはこの義務に違反して、顧客の資産を不正利用した事例もあります。ですので、今後も破綻に追いやられた金融機関がこの義務違反を犯し顧客の資産を持ち逃げする可能性も有り得ます。
こういった事態に備えて、日本投資者保護基金というものがあります。日本投資者保護基金では破綻した証券会社が分別管理の義務に違反し、返還を受けられなかった金銭・有価証券のうち一人あたり合計1,000万円までを上限に補償してくれます。
ですが、これは証券会社限った話で、銀行や保険会社の場合は適用とはなりません。
競争力上の問題点:信託報酬率や手数料
今回、日本生命が月額319円の手数料無料を発表しましたが、生保他社がこれに追随するかは不確実です。生保は独自の営業ネットワークを持っており、ある程度の顧客は見込めることでしょう。
ですが、顧客目線では手数料や金融商品の信託報酬率は安いに越したことはありません。やはり、顧客の目線でユーザー獲得を目指す企業は他社との競争が激しいです。それゆえに、手数料の無料化や信託報酬の引下に積極的に取り組んでいます。
そういった面でも保険会社はやや見劣りしてしまいます。
商品上の問題点:商品ラインナップ
iDeCoで運用する商品は投資信託がメインとなってきます。運用する商品は、無数にある投資信託でも、純資産が多く、流動性も高い、成長の見込める指数に連動するものとなると、優良な投資信託は限られてしまいます。
できれば、以前の記事にした「おすすめの投資信託商品2選」で紹介されているような商品を選んでいきたいものです。
生命保険会社の商品ラインナップを見てみると、自社の投資信託が並んでいます。目論見書を見てみると優良な商品も多いです。ですが、商品の良し悪しを判断するためには一定の知識と時間が必要です。
もちろん、金融商品の中身を理解して購入することは極めて重要です。ですが、生保自社商品をひとつづつ見ていくのは大変な作業です。であれば、これまで時間と知識を活用して優良とされてきた投資信託を購入できる方が安心です。
餅は餅屋
以上の点を踏まえると、拠出した掛金を自身で運用するように設計さえたiDeCoでは、生命保険会社で運用することよりも、証券会社で運用した方がメリットが大きいという結論になります。
ですが、今回の月額手数料の引き下げは業界にとっては非常にポジティブなニュースであることに変わりはありません。
これを機にiDeCoへの関心がより高まり、よりよい制度にアップグレードされていくことを期待したいです。
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